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2010年9月12日 (日)

【号外!】谷啓さん逝く

Kei Tani, a great musician passed away again.

ショックだ…。

谷啓さんが突然亡くなられた。

マーシャル・ブログに谷啓さんとはいかにも脈絡がない。筆者が知っている限りにおいては何も関係ない。

しかし、筆者個人には大いにあるのだ!たまには思いっきりプライベートな話題もいいでしょう?

というのも、筆者は大学時代に谷さんのバックを務めたことがあるのだ。もっと正確に言えば、筆者が所属していた大学のジャズのビッグバンドのリサイタルに谷さんにゲスト出演していただいたというワケだ。

谷さんは我が母校のOBというわけではないが、本職のジャズを演奏できるとあって快諾していただいたようだ。

約30分程度の演奏だったが、古いスタンダード・ジャズのレパートリーを中心にしたステージは飛び切り楽しかった。アレンジもしていただいて譜面も書いていただいた。ギャラについてもかなり特別な温情をかけていただいたように聞いている。そのせいか、さすがに「生ガチョーン」はなし。

特に思い出に残っているのは、ロックンロールの曲でソロを弾いたことと、谷さんアレンジの『瀬戸の花嫁』。主旋律をギターで奏でたこと。(筆者はギターで参加していました…って他の楽器は何もできません) これはビッグバンドでは絶対にあり得ないことで、苦手な譜面を渡され恐るおそるメロディを奏でた。間違いなく正確に弾いているのに何かヘン。バンドの仲間も「間違えてる!」と言う。でも何回やって譜面を確認してもヘン。というのも谷さんはこの曲をマイナーにアレンジしていのだった!

当然、谷さんはおしゃべりや歌の他に本業のトロンボーンを盛大に吹いてくれた。この音色が途轍もなく美しく、なめらかで、そして温かかった。

谷さんはコーヒーがとてもお好きらしく、リハーサルの間、スタッフの方がいつもコーヒーの入ったポットを手にしていて、谷さんが合図をすると、サッとカップにコーヒーを注いで渡していた。驚いたのはリハーサルを実に真剣にされること。お忙しい方なので、本番前に一度しか学校でリハーサルができなかった。そのせいかも知れないが、谷さんは演奏だけでなくMCも本番さながらにさらっていかれる。そして、本番ではそのリハーサルと一言一句違わないMCを展開されていた。「これがプロの仕事なのか…」と至極感心したものだった。

60年代はビートルズ、50年代はエルビス、その前の時代のアイドルはフランク・シナトラやビング・クロスビーなどのジャズ歌手たちだった。テレビがまだなく、映画の影響が大きかったころ、ジャズがもっともポピュラーな音楽であった時代があったのだ。

クレイジーキャッツはそんな時代背景にあって大人気を博した。彼らは完全なコミック・バンドかコメディアン集団と思われている節が強かったようだが、それだけでは決してなかった。

1954年(昭和29年)、横浜伊勢佐木町の「モカンボ」というジャズ・クラブで、天才と呼ばれた守安祥太郎というピアニストを中心にしたジャム・セッションが催された。いわゆる『モカンボ・セッション』。穐吉敏子、渡辺貞夫、中村八大等も参加していた日本のジャズ史に残る有名な出来事だ。そして、このイベントを仕切っていたのがハナ肇、入口で切符のモギリをやっていたのが植木等だった。つまりふたりは日本のジャズの黎明期にシーンの中心にいたことになる。

安田伸は芸大出身だし、谷さんはシャープス&フラッツに在籍していた。

こうした才気あふれる一流のミュージシャンたちが一同に会したバンド(コンボ)なのだから、演奏をしてもコントをしても一流のものが出来上がったのだ。

ちょっと話はそれるが、急に思い出した…。大分前にアルト・サックス奏者のクレイグ・ベイリーという人と話したことがあって、クレイグはしきりに言っていた「昔のアース・ウインド&ファイアは本当にスゴかったんだよ。メンバーがみんなジャズ・ミュージシャンだったからね。演奏が完璧だったんだ!」…と。

もちろん、ジャズが一番偉いなんてことを言うつもりは毛頭ありません。誰でも気軽に楽しめるのが音楽のいいところなのもわかっているつもり。でも、音楽を奏でるつもりならある程度の、イヤ、ある程度以上の器楽演奏技術を身につけるべきだとあらためて思う。クレイジーはといえば、優秀な演奏家が真剣にコミック・バンドをやっているからスゴイんだ。

偉いのはジャズ・ミュージシャンではなくて昔の人か…。

あのリサイタルのビデオは今でも宝物として大事に保管してある。コーヒーをとてもおいしそうにお飲みになられていた谷さんのお姿が、若き日の楽しい思い出として私の脳裏に焼き付いている。

心からご冥福をお祈り申し上げます。

P.S.  本稿掲載後、いくつかのテレビの報道番組で谷さんご逝去の報に触れたが、「トロンボ二スト」としてのご紹介が少ないというか、ほとんど皆無に等しいことに心底驚いた。そして、とても悔しかった…。谷さん、天国で思いっきりグレン・ミラーを楽しんでください!

(一部敬称略)