ギターの爆音でガラスが割れるか?
Is it possible to smash glass with the loud sound of guitar?
ひとつことを長い間やっていると色々な目に遇うものでございます。
某全国ネットテレビ局の企画でした。果たして「ギターの爆音で窓ガラスが割れるか?」。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマーティ・マクフライを思い出します。
マーシャルといえば爆音。爆音といえば、ナニはなくともまずマーシャル。当然の出来事のようにこの企画は私らのもとへ持ち込んでいただきました。
「スミマセ~ン!ギターの爆音でガラス割ろうとしてるんスけど、どうスかね~?」
この電話を受け取った瞬間、体中に電気が走りました。「割れますか?」ですって?…割らんでどうすんねん!といきり立ったことはここに記すまでもありません。
「よっしゃ!やってみましょうよ!」と生来の悪乗り癖が出て、「もし実験の段階でガラスが割れて本番を収録することになったら、その時はせっかくだからジミヘンのそっくりさんにやってもらいましょうよ!いい人紹介しまっせ!」などとアイデアばかりが先走ったものです。そして、思いました。ああ日本には中野重夫がいてよかった…と。
実はかなり昔にオペラ歌手かなんかがブランデーグラスを声で割るのをテレビで見たことがあったのです。記憶を手繰り寄せてみると、確かその番組の解説で、グラスを破壊するエネルギーは音量ではなくて、その発される音の周波数によって決定される。つまり、もっともグラスを振動させる周波数帯の音域がわかれば音に変わりのあるでなし、ギターの音でもガラスを割れるのではないかと思ったものでございます。
実験は都内の某有名大学の理工学部精密機械工学科に赴きご担当の工学博士のご指導を頂戴しながら行われたのです。ああ、大学なんて久しぶりです。
さて、今度はマーシャル選びです。果たしてどのモデルが一番破壊力が強いのか。もちろん宣伝のことも考えなければならないし…。
よく爆音、爆音っていいますが、感じる音のデカさというものはディストーション・サウンドよりクリーン・サウンドの方がはるかに勝っています。ゲイリー・ムーアがいい例です。すると1959系統かな?でもJVMのCLEAN/GREENも結構デカイいしな…。2203KKも音はデカイけど歪みが比較的深いので予想しているより破壊力はないだろうな…。案外MGが一番だったりして…。と思いを色々とめぐらしつつ決定したのが、1959RRとJVM410Hだったのです。キャビネットは1960Bにしました。
下の写真は1959RRをガラスに向けて音を出しているところです。ガラスにセンサーを取り付けてもっともガラスが振動する周波数帯を探すわけです。
「マーシャル≧爆音」という定理が浸透しているおかげで、始める前には「一体どれぐらい大きい音なんですか?」などとスタッフの皆さん、まるでゴジラの大きさでも尋ねるかのようなおっかなビックリさ。
「イヤ、大したことないですよ~」と答えてもご覧の通り防音室から私ひとりを置いてみんな出て行ってしまいました。当方、毎日この爆音に囲まれることを生業としているんですけどね。
ひとり残った私は1959RRのボリュームをグイと上げて愛用のレスポールをかき鳴らしたワケです。ま、今となってはこれくらいの音量、ゲイリー・ムーアに比べれば可愛いもんです。
防音室の外では振動が最も大きくなる音を計測しています。結果140Hzあたりが一番振動を与えやすいということがわかった。これがどの程度の音程かというとどうもDbくらいになるようなのです。ということで6弦を緩めて開放でDbを弾く。もう私の仕事はあとずっとDb。ビエ~ン、ビエ~ンと黄色とも青色ともつかない作業。
割れん!かなりガラスは振動するのだがヒビが入る気配すらないのです。下の写真は1960Bを寝かせてアクリル板をかぶせ、その上に小さな球状の発泡スチロールをばら撒いてどのあたりが一番振動しているかを調べているところです。 これは面白かった。
こうしているうちにポイントが大分集約されてきました。周波数滞がつかめているので後はいかに音のエネルギーを集中させるかということが肝要になってきます。
また、ここまでは運搬時の事故を考慮し、試供体のガラスをアルミ製の枠の中に入れていたのですが、この枠のクッションが振動をいいように吸収してしまい、音エネルギーが与える影響が小さくなってしまっていたのです。
それから、実験には厚さ2mmのガラス板を使用しましたが、これは丈夫すぎでした。
そこで音が比較的集中するようなアクリルの箱を1960に取り、アルミ枠から取り出したガラス板をその上に乗せてDbをカマシタのでした。
下の写真を見てください。ブルーシートが敷いてあるでしょう?そう、もし割れたら大変だ!という準備です。それぐらいガラス板は派手に振動してくれたのです!
でも割れなかった。
<まとめ>
1.ガラス厚すぎ。もっと薄いスリガラスのようなものでないと難しい。
2.グラスの場合は円状であるがゆえ、与えられた力が分散しにくく、歪率が高くなりやすい。板ガラスの場合はその不利。
3.無響室では音が壁に吸収されてしまってパワーダウンしてしまう。四方をコンクリートで囲まれた環境の方が効果的。戦車の中とか?
4.音量的には不可能ではないレベルだが、スピーカーキャビネットの特性として音が広がってしまいパワー不足に陥る。その点、声の場合は口を丸めることによって音エネルギーを一点に集中させることができる。したがって、巨大な漏斗のような器具で1960の4つのスピーカーから出てくる音を一箇所にまとめ、それをガラスに当てることができれば割れる可能性あり。
ま、結論としては、普通の環境ではギターの爆音でガラスを割ることができません。
もっとも簡単に割れていたら武道館なんか何枚ガラスを用意しても足りませんもんね!
でも実験はメッチャ面白かった!




