日本にはテレビやラジオから土方隆行のギターの音が聞こえてこない日はありません…。マーシャルの音です。日本を代表する名ギタリストへのインタビューをお楽しみください。
マーシャルとの長いつきあい
YMT(以下Y):マーシャルとの出会いは?失礼ですけど…一体何年前の話しになるんでしょうかッ?
土方隆行氏(以下H):え~と、中学2年生の頃ですから…、30…35、36年前ですかね?
Y:マーシャルは今年で45歳なんですよ。もうほとんどマーシャルの歴史とともに過ごされていますね?
H:1969年くらいかな?クリームでマーシャルを知りました。クラプトンとジャック・ブルース。
Y:それでははじめてお使いになられたのは?
H:最初に買ったのが多分18歳のころ。やっぱり30数年前ですね。
Y:いきなり「買い」ですね?それは今の若い方々と完全に状況が違いますよね。今は「最初のマーシャルはスタジオ」は当たり前です。我々が(インタビュアーも土方氏とほぼ同世代)若い頃にはマーシャルの匂いさえ嗅ぐことができなかった。
H:あの頃スタジオにマーシャルがあったら大変でしたよね!今は普通ですもんね。それまで国産のギターアンプを使っていたんですが、マーシャルは最初から3段積みでした。UNIT3と呼ばれていたヤツ。値段がガクっと下がったときに買ったんです。
Y:1974年の1959?うれしかった?
H:もちろん。最高にうれしかったですね。部屋において、朝起きるとそこにある!それだけでうれしかった。でも実際使う段になると…。買ったはいいけど、一体どうしようかと思いました。
Y:歪まないし、ハイは恐ろしく強いし…。
H:音が大きくて全く家じゃ使えませんでしたもんね。一度、キャビを部屋の壁に向けて、その間に布団をパンパンにつめてミュートしてボリュームを上げて弾いてみたことがありました。
Y:どうなりました?
H:家全体が揺れました!(爆笑) 結局、最初のマーシャルは使いこなせないままに手放してしまいました。
Y:アソカの頃の話しですか?
H:イヤ、その前の話しで、ジェフ・ベックのコピーバンドをやっていました。「ラフ・アンド・レディ」の中の曲とか…。でも実はリッチー(ブラックモア)が大好きでマーシャルはリッチーの影響が強かった。
Y:多いですね~、リッチーの影響を受けた人って。
H:てっきりああいう音が出ると思ったんですよ。ところが実際にストラトをハイのチャンネルにインプットして弾いたら…鼓膜が破れるかと思った!全然歪んでくれないし…もう本当にどうしようかと思っちゃった!
Y:それじゃ、本当に全然使わなかった?
H:イエ、ライブでは何回も使いましたよ。
Y:ディストーション・ペダルで歪ませて?
H:イエイエ、そんな上等なものはなくてファズとかサスティナーとかでした。そのバンドはベースの人も3段積みを買って、ドラムはツーバス。もうルックスだけはものすごかった。ボリュームを1より上げた記憶はないですね!
Y:リンクなんかはしなかったんですか?
H:そんな高等テクニックはもっと後になって知りました。手放してから「そうか、そんな手があったのか!」って。今思えば持っておけばよかったと後悔しています。
マーシャル歴
Y:土方さんといえば日本を代表する売れっ子ギタリストで輝かしいキャリアを誇っていらっしゃいますよね。様々なお仕事をされているわけですが、その後のマーシャル歴はどう変遷されたんですか?
H:実は、その後マーシャルを離れたんです。仕事上持ち運びの関係もあってもっと小さいコンボを使っていました。ASOKAの頃です。でもいつでもマーシャルは持っていたかった。
Y:でも手放しちゃった。
H:ウン。ASOKAが終わってマライアになった頃、偶然健ちゃん(北島健二氏)と同じ事務所に所属したんです。そしたら健ちゃんが今も使っている2203を買うので、その時使っていた古い2203を買わないかって。それを買い受けました。その2203は今でも使っています。
Y:あれ元々は北島さんのものだったんですか?
H:いいアンプですよ~!
Y:その後のマーシャルは?
H:だから、ずっとその2203ですよ。その後はご存知の通りのTSL60です。
Y:メチャクチャ跳んでますね!
H:だってあの2203はものすごく気に入っているんですもの。
Y:そして2061X。
H:大好き!
Y:今度はVintageModern。
H:やっぱりマーシャルですよ!
マーシャルの魅力
Y:これも月並みな質問で、土方さんの場合はじめから答えがわかっちゃいそうですが、好きなマーシャルの音といえば…?
H:リッチーでしょ…でも、最初は何といってもクリームのクラプトンなんですよ。「クロスロード」でやられました。アルバムでは「グッバイ・クリーム」。クリームってライブアルバムが結構出ていてそれぞれギターの音が違いますよね。最初に聴いたせいか、「グッバイ・クリーム」のマーシャルの音が一番好きです。「トップ・オブ・ザ・ワールド」とか「政治家」とか。
Y:まわりはどんな状況だったんですか?
H:クリームは中学の時のロック友達から教わって聴き出したんですけど、その頃、あちこちでロック・フェスティバルなるものが盛んに行われるようになったんです。フラワー・トラベリン・バンドなんかが出て…。そこにミッキー・カーチスとサムライというバンドが出たんです。エディ藩さんの他、バックのミュージシャンはイギリス人で、そのサムライの出番になったらステージのそでからいきなりマーシャルの壁が出現したんです。ギターの人、名前は忘れましたがファイヤーバードを使ってて音はもちろんあのマーシャルの音。あれが一番最初に見た生のマーシャルだったのかな。外タレなんかまだあまり来なくてね。
Y:それでは外タレのご経験といえば?
H:はじめて見たのがレッド・ツェッペリンでした。1回目も2回目も行った。特に1回目の時はすごかった!その後はディープ・パープルにはまりました。あのリッチーの音に!
Y:ご覧になったんでしたっけ?
H:イエ、行ってないんです!友達はみんな行ったんですけど、ぼくはその時ちょうどお金がなくて…。
Y:でもBBAはいらっしゃったんですよね?
H:あれも凄かった!後はもうジミヘン。でも本当にジミヘンのよさがわかったのは最近かも。
Y:最近、土方さんジミヘンの話題多いですもんね。
H:やっぱり影響力は大きいですよ。
Y:マイルス・デイビスと演れればよかったのにネェ!
H:ネェ~!
Y:でも、「ジャック・ジョンソン」でガマンしときますか?
H:マクラフリンもマハビシュヌの頃はマーシャルじゃないですか!
Y:アル・ディ=メオラも…。
一流スタジオ・ミュージシャンのセッティング
Y:マーシャルを使う時に土方さんおきまりのセッティングというものはありますか?
H:マーシャルの場合、同じセッティングでもモデルによってミドルの出方が違いますよね?求めている音は共通だと思うんですけど、そこに到達するまでの過程がモデルによって違ってきますね。
Y:ミドルですか…今回のVintageModernはおいしいミドルのためのアンプですから土方さんのサウンドメイキングが楽しみですね。
H:そう!ほんとにこのミドルはスゴイ!2203なんかだと少しミドルを出すのにコツが要るけど、VintageModern は即いけますもんね!
Y:キャビネットの影響もありますからね。特にVintageModernのキャビネット425はミドルを絵に描いたような音をだしますから…。
H:まさにそうだね!キャビネットが音に及ぼす影響ってホントに大きいよね。
Y:その他何かセッティングの極意なんてありますか?例えば、ボリューム以外ゼロからドンドン上げて調節していくとか、またはその反対とか…。
H:基本的には欲しい音域を足していくよりも、いらないところを削っていく方法のほうが音はつくりやすいかもしれない。僕の場合、足していく方法はどうしても全部のコントロールが上げ気味になっちゃうんです。音量も大きめになってしまう。
Y:料理をするとき調味料を調整していて量が多くなっちゃうみたいなもんですな?
H:そうそう!あるいは全部真ん中にしておいて調節いくとかね。VintageModern の場合はBodyとDetailでほとんど決めちゃう方法がおすすめだね。だから、2203もそうだけど、マスターとゲインがあるモデルは、ま、トーンは後から調節するとして、まずゲインとボリュームでベーシックな音を作っちゃう。ゲインを高めにすればミドルが出てくるしね。
あこがれのマーシャル
Y:古今東西、あの人のマーシャルで音を出してみたい!なんて人はいますか?
H:クリーム時代のクラプトンのマーシャル。ファーストアルバムのヴァン・ヘイレンのセットは是非弾いてみたい!同じ音は出ないだろうな~。
Y:ブラウン・サウンド!
H:最近のエディの音は「プリで歪ませています」という感じだけど、あの頃はアンプ全体が燃え上がっていたって感じがします。
Y:ヴァン・ヘイレンが出てきた時は衝撃を受けましたか?もうその頃はプロでしたか…?
H:うん、プロだったかもしれない。ある楽器屋さんで初めて聞いたのを覚えてる。「これ誰ッ?!」って店員さんに訊いた。
Y:モデルとしては?
H:やっぱりオリジナルのJTM45!
マーシャルはロックの音
Y:最近は吉田拓郎さんでは2203、吉田美奈子さんでは2061Xと色々なマーシャルをお使いいただいておりますが、キッチリ使い分けていらっしゃるんですか?
H:もちろん。音楽のタイプに合わせて当然使い分けていますが、基本は僕の根底にある「ロック」のサウンドを大切にしています。ホントにイザというときに完璧なロック・テイストを出してくれるんですよ、マーシャルは。
Y:他にもいわゆる「ロック・テイスト」のアンプがありますが、一体マーシャルは何が違うんでしょうか?
H:ウ~ン、なんだろうな…。すごく抽象的なんですけど、すごく「ロック」の音なんですよ。ロック度が高い。僕の体の中にあの音が入りきっているんですね。
Y:お付き合いをしていて気がつくのは、土方さんは「あの真空管がどうだ」とか「こっちのスピーカーに変えるとどうなるか」とかほとんど…イヤ、絶対におっしゃらないでそのままお使いになりますよね?
H:そうですね。一時期ケーブルなんかに凝ったこともありましたが、考えてみるとジミヘンなんてあのカールコードであの音でしょ?そりゃいいに越したことはないけど、あんまりその辺に固執すると大事な部分を見失ってしまうような気がして…。それにマーシャルだって一番いい状態の設計にしているはずだし。仮に粗悪なケーブルしかない現場に出くわしたとしてもアンプの調整でどうにでもなるし。
Y:根っから現場の人なんですね~。30年のキャリア。はじめてのギャラは覚えていらっしゃいます?
H:夜の仕事でした。事務所に入ってお給料をいただいたのはフライング・ミミ・バンドのときです。30年前。
Y:その後はスタジオ生活?
H:あの頃世の中ディスコブームってのがありましてね。何でもディスコ・ビートに乗っけちゃう。ずいぶんレコーディングやらせていただきました。そして、その時のおかげで譜面にも強くなりました。
レコーディングとライブ
Y:レコーディングでもステージでもマーシャルをお使いいだいているわけですが、それぞれのシチュエーションで気をつけていることというか、使い分けているようなことはありますか?
H:音量のことで言えば、レコーディングの場合はもう好きな音量で弾くことができるわけです。爆音でもOK。もろにマーシャルのすごさを発揮することができる反面、その音をマイクで拾わなければならない。ここでいかにそのマーシャルのすごさをマイクに拾わせるかが滅法むずかしい。エンジニアさんとのコミュニケーションが大切ですね。鳴っている音と録られている音とのギャップを埋めるのが大仕事。ま、とはいってもこっちでいい音を作っていればすんなりいくことが多いです。
Y:仕上がってみて、「アレ、ギターこんな音じゃないんだけど…」なんていうことはあります?
H:昔はよくありました。エンジニアの方が僕らより世代が上でマーシャルの音をご存じなかったんです。今はもう素晴らしい。皆さんよくマーシャルをご存知ですから何をするにもスムースです。
Y:一方、ライブはメンバー間の音量問題がありますよね?
H:そう。ライブはむずかしい。生一本のロックバンドでガァーっていくのは問題ないんですが、歌手のバックだとバラードからアップテンポまで色んなタイプの曲を演らなきゃならない。その辺の音量の調整が難しいんです。音量を抑えて音をショボくするのはイヤだし。抑えてもホットな音を保つようにしたい。だからマーシャルは使いやすいんですね。
Y:吉田美奈子さんのバックを務めるなんて楽器を演る人間にとっては最高の栄誉で、ステイタスの高い仕事だと思うんですが見ていてドキドキしてくる。耳の良さそうな方ですし、音量のバランスとか厳しいんだろうな~って。
H:そうですね。でも本当にやりがいのある楽しい仕事です。
Y:マーシャルを使ったレコーディングで気にいっているお仕事は?
H:マライア、ナスカ、すごく気に入っています。それからソロアルバムの「フル・ムーン」。あれはほとんどTSL60で録りました。あとアレ…。
Y:アレ?トニー木庭さん? H:そう!あれもお気に入りです。(註:土方さんはトニー木庭さんのソロ・アルバム「Rough & Smooth(Better Days YF-7025-N(BD))」で吉田健さん、清水信之さんとともにレイ・ゴメスの超絶曲「Westside Boogie」を演奏しています。この曲は他にも故Shawn Laneが凄まじいカバーを残しています)
気合を入れて弾く
Y:若いみなさんにアドバイスを頂戴できますか?
H:あのね、いつもマーシャルを弾くときには気合を入れるんですよ。気合を入れると音がよくなるんです。他のアンプはこれがないんですよね。やっぱり特別な思い入れがあるんでしょう。思い出を背負っちゃうみたいな。いい音で弾いてあげたくなるんです。若い方々にはわからないかもね。マーシャルとちゃんと向き合ってもらえるとうれしいな。だから、ちょっと弾いて気に入らなくても「あ、ダメだ」なんて思ってもらいたくない。すぐに結論を出してもらいたくないですね。マーシャルなら結論を出すのはとことん使ってみてからでも遅くない。